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映画の感想つらつらと。

新時代の幕開けと未来への期待『エターナルズ』

2021年マイベスト。新時代のヒーロー像を打ち出したMCU傑作映画です。

 

※ネタバレあり

 

ETERNALS
監督:クロエ・ジャオ/2021年/アメリ

 

IMAX鑑賞をおすすめしたい作品。画面いっぱいに映し出される壮大な自然、畏敬の念を抱くには十分に巨大なセレスティアルズ、光と影で見せるキャラクターの複雑な表情、どれも見応えのあるものばかりだった。色彩豊かな映像に終始魅了された。

 

7000年という果てしない時の流れの中で描かれた物語は意外にも10の超人が織りなすファミリードラマであった。愛を育み、病に傷つき、未来に絶望し、死を慈しむ。そこには「神の使い」からは想像もできぬ程に至極人間的な交わりがあった。

 

MCUがこれまで描いてきたヒーローには皆どこかに弱みを抱えていた。超人的な能力や才能を持ち合わせていながら常に悩み葛藤するミクロなスケール感に私たち観客は思わず感情移入してしまう。そしてそれは今作のエターナルズ達にもそのまま当てはまる。遥か遠い昔にこの星へ降り立った神の使いでありながら、実は我々とさほど変わらない人生を全うしていたという姿に思わず惹かれる。地球の全人類を10人に集約したかの如く年齢も性別も肌の色も全てが異なる個性豊かな面々だ。それは新時代のヒーロー像であると同時に人類とそう遠くない存在であるように見える。「エターナルズ」という呼称が「アベンジャーズ」のようなチーム名ではなく種族としての呼び名であるように。

 

上映時間2時間半越えというのは控えめに言っても長尺だ。だが今作には10人ものメインキャラクターが一挙に登場する。それを一人も埋没させることなく描き切ったのは見事だ。

 

私が今作で特に魅力を感じた人物は瞬足の持ち主・マッカリだ。彼女は耳が聞こえないキャラクターだが、これはマッカリを演じる俳優ローレン・リドロフの身体的特徴をそのまま反映させている。彼女はインタビューで以下のように語った。

 

“どうしてマッカリが聴覚障害者なのか、どうして他のエターナルズとは違うのか、またどの様にして彼らが手話を学んだのかを劇中に説明する場面がないところが私がクロエ監督とこの映画の好きな点なんです。現実世界と同じなんです。単に“他と違う人”を見るというのは面白いですよね。”

 

本作の魅力はあらゆる点でこれに尽きる。物語の主人公が白人男性のイカリス(ちなみに原作では彼が主人公。)ではなくアジア人女性のセルシであることも、ファストスに同性のパートナーと子供がいることも、「描きたいから描く」という自然な動機の上に存在していることが素晴らしいと感じる。物語上必要だからという理由が先行するのではなく、そこにいるからいる、ただそれだけである。全てのキャラクターが対等な視点で描かれていることが何より本作の評価されるべき点だ。他にも人類文明における最大の失敗として描かれた広島の原爆投下や、精神に病を負ったセナをギルガメッシュが献身的に支える姿、ついには最終決戦に参戦しないキンゴなど挙げればきりがないほどに映画としての新しさがあり、ある種のお約束的な展開(あるいは潜在的なバイアス)を裏切る場面が多く見られた。それは偏に監督のフラットな視点や公正さから来たものだろう。ちなみにキャストのインタビューによるとイカリスのトレードマークである白髪はリチャード・マッデン自身の地毛をそのまま使用している。またファストス演じるブライアン・タイリー・ヘンリーはヒーローを演じるにあたって減量を考えていたが監督にありのままのあなたで演じてほしいと止められたという。無意識のうちに形作られているヒーローらしさを

 

もちろんドラマだけでなくアクションパートにも見所は多々ある。さながら少年マンガの如くスクリーンを縦横無尽に駆け回るマッカリや指先から光弾を発するキンゴ、ゲームキャラのように手元の武器を入れ替えるセナといったこれまでにない戦い方は新鮮であった。

 

さて本作は総じて多くの面で映画的な新しさを感じるMCU作品だった。初登場の10人全員に愛着が持てる人物造形であったことや心情の機微を映し出す作風はヒーロー映画に珍しいものだったのではないだろうか。命を持たぬが故に永遠に存在し続けなくてはならない運命と、そこから提示される「自分とは何か」という古典哲学的な普遍のテーマを扱った本作はMCUの中でも特有の面白さを持つ映画だったと思う。今後どのように他作品と交わり、これからの歴史を紡いでいくのか楽しみにしたい。


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