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映画の感想つらつらと。

『夜明けのすべて』やさしく、しっかりと。

※ネタバレあり

 

夜明けのすべて
制作年 : 2024年 / 監督 : 三宅唱


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プラネタリウムと映画館は似ている。真っ暗な闇の中に照らされた光を見つめる。落ち着いた時の流れの中で自分と向き合う。

 

映画館という場所が好きだ。そこに集まる他人がどんな人かは分からない。隣に居合わせた人の人生は何も知らない。嬉しいことがあったかもしれない。悲しいことがあったかもしれない。映画を楽しみに来たかもしれないし、たまたま時間が空いていたから入ってきただけかもしれない。上映直前に入ってきた人は電車が遅れていたのかもしれない。ポップコーンの行列に並んでいたからかもしれない。道に迷っていたからなのかもしれない。

 

映画の最中に笑い声が聞こえると少し嬉しい気持ちになる。息を呑む声や静寂にこちらまで緊張が伝わってくることもある。

 

映画の内容と自分の人生や境遇が重なっていたとき、ひどく心を動かされたり妙な神秘性を感じることがある。自分のことを語られているような気持ちになる。行動の指針と言うと大袈裟だが、観た映画が自分に寄り添ってくれるような特別な意味を持つ存在になることもある。同じスクリーンにいた中の、誰かがそんな素敵な体験をしているかもしれない。

 

人が星に向けるロマンチックな気持ちは、きっと果てしない宇宙の想像を超える壮大さに由来している。今ここにいる私が何をしたって、彼方の星は何一つ変わらない。

 

嬉しいことがあった日も、悲しいことがあった日も、星は変わらず光をくれる。夜が訪れるとき、暗闇の中にひとり投げ出されたような気持ちにおそわれることもあるけれど、指先でつまめそうなくらいのちっぽけな光に救われることがある。何万年も昔に輝いていたという光は今日を生きる私たちの道標としてたしかにそこにある。

 

どうにもならなくて辛いとき、苦しいとき、私は宇宙を想像する。巨大な銀河を思い浮かべると砂粒よりもうんと小さい私の悩みが少しは軽く受け止められる。人の悩みを聞いていれば簡単に思いつくような解決策が、自分のときには考えつかないことがある。1人で乗り越えようとする壁はずいぶん大きく見えるし、誰かに支えられていると驚くほど簡単に越えられたりもする。

 

誰かを支える真心は他の何も必要としない。そこにあるのは純粋な気持ちだけでいい。重たい荷物を持ったおばあちゃんに声をかけたり、イヤホンしている人に落とし物を渡すためにそっと肩を叩いたり、たまたまそこにいた2人が影響し合い、そして離れていく。  それは闇に光る小さな光のように、ただそこにいるだけの関係性が清々しく、ほのかに温かい。