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映画の感想つらつらと。

『終わらない週末』明日の我が身より今日のフレンズ

※ネタバレあり

 

Leave the World Behind
制作年 : 2023年 / 監督 : サム・エスメイル


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週末を過ごす家族に訪れる数々の怪異。理解不能な現象に見えたそれらは、テロによって崩壊する国家の一端だった。

 

現代社会において情報が持つ力は計り知れない。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルハマスの対立は「情報戦」と呼ばれるように各陣営が自らの正しさを主張し、攻撃を続ける相手側を非難している。また国家のみならず国民も日々の生活が脅かされる恐怖をスマホで撮った映像や写真と共にSNS等で発信しており、現在進行形で起きている悲劇を驚くほど手軽に見ることができるのは現代社会ならではと言える。中には巧妙に作成されたフェイク動画、フェイクニュースも含まれており、無尽蔵に溢れる情報の真偽を見定めるリテラシーも問われている。

 

痛ましい事例を挙げたが、例えば私の好きな映画シリーズであるMCUも新作映画が公開する度に俳優とキャラクターをコラージュしたフェイクアートや吊り広告のような偽画像が横行している。ネタバレやリークに敏感なファンを誑かすデマは公式のものと非常に酷似しているため、時には肝心の公式動画やポスターを偽物と警戒してしまうことすらある。やはりここでもむやみやたらな拒否反応を示していては正しい情報を取り逃してしまう。ネットの虚偽に騙されずに正しいものを掴む能力が必要だ。

 

簡単に嘘が出回り信じられてしまう世の中だからこそ、自分の正しさを証明することと相手の正しさを信じることは難しい。本作ではサンフォード家のもとに数々の不可解な現象が降りかかる。理解不能な出来事は彼らの不安を駆り立て他者への不信を生み、分断と孤立をもたらす。本来なら手を取り協力するべき場面で、人は寄り添うことが難しくなってしまったのかもしれない。

 

これは人類が情報社会を発展させた反動であり、人間が持ち合わせていた動物としての本能的な行動に歯止めをかけている状態と言える。なぜなら本作に登場したシカやフラミンゴ、小鳥の群れは恐らく身の危険を感じたことで本能的に集まり生き残ろうとしている様子が伺えるからだ。連帯を取り安全な場所へ避難する過程で人間一家に遭遇してしまったのだろう。もっと踏み込めば、そもそも人間も非常時には彼らのように協力して身の安全を確保するために動ける存在であり、それが現代社会においては機能しづらくなってしまったということを暗に示しているのではないか。アマンダと別荘のオーナーであるG・HがR&Bの音楽で身を寄せ合えたのは、人間本来の性質を表しているように思えた。

 

奇妙な現象の背景にある「何か」は、テロリズムであった。衝撃の事実を知る由もない娘のローズは迷い込んだ地下シェルターで偶然にも大好きなドラマ「フレンズ」のDVDを発見する。サイバー攻撃のためにNetflixで最終回を視聴できずにいた彼女は万感の思いで見届ける。ディスクという物理メディアを比喩に実存在の信頼性を語っているようにも見えるが、それ以上に彼女の笑顔を皮肉を込めて写していることが目に留まる。興味のない情報はたとえそれが世界の滅亡であったとしてもその人にとって価値はない。セグメントで作られた「WELCOME!」の文字はそうした無関心の闇へと誘われる人間を冷笑しているようである。

 

個人の嗜好をもとに取捨された「あなたへのおすすめ」は盲目性を加速させ、当人は情報の渦の中へ静かに溺れていく。現代社会はそうした危険をはらんでいるということをこの映画は警鐘している。