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映画の感想つらつらと。

『CLOSE / クロース』喪失と後悔。残された者の選択。

重く辛い内容ですがフォローもある優しい映画でした。

※ネタバレあり

 

CLOSE
監督:ルーカス・ドン/2022年/ベルギー、オランダ、フランス

 

この映画の好きなところは死や喪失をもって映画を終わらせるのではなく、残された人々がそれとどう向き合い前進していくかまでを描いた点である。

 

大切な人との別れを扱った作品は数多く存在する。例えば今年の作品でいえば『The Son』では息子が、『aftersun』では父親を失くした家族の物語があった。いずれもクライマックスに別れ(あるいは既に別れているという示唆)を描いており、深い悲しみをもって映画を閉幕させている。観客を突き放すような衝撃を与えるこのやり口は強い余韻をもたらす一方で、感情の整理がつかないままに映画を強引に終わらせる身勝手な手法とも言える。

 

しかし本作における別れは映画中盤に登場する。その手前では主人公レオと幼馴染であるレミの関係性の変化を、以降はレオが喪失と後悔にどう向き合うか時間をかけて丁寧に描いている。

 

登場人物たちの繊細な心模様が画面を通してはっきりと伝わってくる。レオとレミ、2人の透き通るような目が美しい。喜びも、戸惑いも、そして悲しみも。目に映る少年の純真さが鋭く見る人の心を貫いてきた。そしてそれを支える柔らかい光や絵画のように鮮やかな花畑。感情とリンクするように描かれる風景やモチーフがより印象を強めていた。

 

周囲から2人の関係性を揶揄されたことで覚えた違和感のせいで以前と同じような仲でいられなくなってしまったレオ。学校やホッケー教室という集団の中に潜り込み、社会の規範に無理やり自分を押し込むことで普通であろうとする姿が非常に切ない。やがてレミがこの世を去り、取り返しのつかないことをしてしまったと自分を追い詰めてしまう心情にも同情を禁じ得ない。誰しも幼い頃に友人との関係で悩んだ経験があるだろう。その中でもレオが感じていた苦しみはとりわけ大きなものであることは容易に想像できる。彼はどれほど辛かったのだろうか。どうしていなくなってしまったのか。問いかけてみても答えは返ってこない。どうして自分はあんな態度をとってしまったのだろう。後悔が絶えない。

 

ある人物の死というものに対して様々な反応が見られた。涙を流さなかった人もいればいつまでも傷が癒えない人もいる。レミの父親がふとした瞬間に涙を堪えきれず流した場面はとても胸が苦しかった。悲しさの涙であり、無力感や困惑の表れでもあっただろう。

 

同じくレオの苦しむ姿も辛いものがあった。ずっと一緒に過ごしていたレオはただ1人、自分のせいで悲劇を引き起こしてしまったかもしれないという秘密を誰にも打ち明けられずにいた。学校にいても、ホッケーの練習をしていても、夜眠りにつこうとする時にも、レミを追い込んでしまった自身の過ちが重くのしかかる。レミの母親も2人の関係性に何か変化があったのだろうという疑いを抱えたまま、しかし面と向かってそれをレオに問い詰めることはせず、彼自身から打ち明けられるのを静かにただ待っていた。確かにレオが思う通り、レミは彼に深く傷つけられ最後の選択を取るまでに追い込まれていたかもしれない。しかし本人がいなくなってしまった今本当のことはもう誰にも分からないのだから、自問自答を繰り返しながら折り合いをつけていくしかない。だからレオが最後にレミの母親に打ち明けた告白は、2人の心の負担を少しでも軽くしたのだと思う。

 

胸のつかえがとれたような様子のレオ。天気は晴々としていて、農園には一面に花が咲き誇っている。彼はレミの自宅に向かうがそこにはもう誰もいなかった。少しずつ前に進み始める人々。レオもまた花畑を思いきり駆け抜ける。その姿はレミと過ごしていたあの頃のようだった。ふと足を止め、後ろを振り返る。レミがいた場所を望むように、そして自分の中でけじめをつけるように。そして再び歩き始める。前を向いて一歩ずつ。希望を感じられるエンディングが俯いた気持ちに光を与えてくれるようである。


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