sugarspot

映画の感想つらつらと。

『ザ・メニュー』感想 これは映画そのものを語る映画である

最高のおもてなしについて考えました。

※微ネタバレ有り

 

The Menu
監督:マーク・マイロッド/2022年/アメリ

ストーリーについては割愛。この映画はシェフと料理をテーマにしていたが、私はこれを見て映画や映画界について考えていた。というより料理というモチーフを使って映画というものに対する監督の思いをぶつけているのではないかとすら感じた。

 

一流の俳優と一流の機材を用意し一流の作品を仕上げる。名高い批評家に目をつけられると忽ち世界に顔が知られる。客の母数が大きくなると好ましくない者も目につくようになる。客は付け焼き刃で覚えたような用語を並べて作品を「批評」する。そうした輩はいい加減な感想を並べ、満足いかなければ適当ないちゃもんをつけ裏切られたと立ち去っていく。一流であり続けるためには多少の生活は犠牲にしてまで製作に向き合わなくてはならない。その中で重圧に押し潰されて去っていく者も現れる。我々の前には表出しない深刻な問題も存在する。業界の内外でそうした問題や厳しい現実と向き合ううちに作ることの本質的な楽しさを忘れてしまう。目の前の客に対して極上のサービスを提供する、ということが出来なくなってしまう。

 

この映画は映画業界そのものを表している。シェフ=監督が直面する理不尽な世界を端的に説明している。そして同時に彼らの危うさも伝えている。どんな状況であろうと「極上のサービスを提供する」という務めを忘れてはいけない。愛情が執着に変わってはいけない。面白いと思うもの、世の中に求められているもの、そうしたものを深く考え、作ることに精を出さなくてはいけない。なぜなら彼らにはそれができるのだから。いたってシンプルなチーズバーガーが作れるように。

 

一流であるかどうかでは意味を持たない。提供する側としての矜持を持ち役割に勤しむことである。「作品と心中する」というといかにも優れた表現者のように聞こえるが所詮それも自己満足でしかなく、受け手の気持ちを考えない身勝手極まりない行為であるのだ。作り手の精神を理解し、一人島から脱出できたマーゴには業界に対しての希望を託しているように思う。


www.youtube.com