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映画の感想つらつらと。

『NOPE』前例のない超スペクタクル映画

この映画は私の2022年のベスト映画に選んだ作品である。公開当時に劇場で鑑賞していたが当ブログ開設前だったので感想はまとめていなかった。だが最近ブルーレイで2回目の鑑賞をしたので、これを機に感想をまとめたい。

 

※ネタバレあり

 

NOPE
監督:ジョーダン・ピール/2022年/アメリ

 

私がこの映画を好きな理由は3つある。①意外性②テーマ③唯一無二の鑑賞体験だ。順に説明していく。

 

①意外性

監督の作品はいずれもホラー映画の装いで身を包みながら珍妙な仕掛けを隠し持っているのが特徴的だ。「ゲット・アウト」では黒人の身体を白人が乗っ取る恐怖の儀式を、「アス」では自分と瓜二つの人物が世界を征服するという素っ頓狂な世界観を披露していた。さらにそこには社会風刺や批判が込められており、観客を楽しませるギミックが重層的に織り交ぜられている。

 

「NOPE」も例外ではないが過去の作品とは一味も二味も違う。未知の存在との邂逅をホラー調に描いたかと思えば途中、一転して巨大生物との大勝負が始まるのだ。誰がこんな展開を予想できるだろうか。

 

この映画は過去の映画のオマージュが散りばめられていながらそのどれとも違う、前例のないジャンルではないかと感じる。実際に監督のジョーダン・ピールもインタビューで以下のように答えている。(03:00〜)

 


www.youtube.com

“観客は「未知との遭遇」を観ているつもりだったのにそれは「ジョーズ」だったと気付くわけだ。以前から超大作のスペクタクル映画をやりたいとの思いがあり、だが数年前の自分には作ることが出来なかった。3作目にしてその自分のアイデアと向き合った。”

 

私はこの捻りにこそ本作最大の魅力があると感じている。予想を裏切り、期待は裏切らない。前半のひたすらに暗い、不穏な状況があるからこそ、転調後の逆転劇が一層際立つ。愛馬で駆ける兄、オートバイで激走する妹。大空へ飛び立つ巨大バルーンのガンマン。空中でのGジャンとの対峙。全てのシーンが迫力に溢れ、粋な演出で魅了してくる。序盤のホラーテイストが嘘であるかのような展開に意表を突かれつつ、巨大怪獣とのガチンコ勝負を用意されたら興奮しないわけにはいかない。ここぞとばかりに流れる音楽が戦いを一段と盛り上げる。

The Run (Urban Legends)

The Run (Urban Legends)

 

監督史上最高値の意外性が、そして良い意味で裏切られた感覚が、非常に心地良かったのである。

 

 

②テーマ

社会風刺やメッセージ性に富んだ作品作りが特徴であることは前述の通りだが、今作に流れるテーマも非常に興味深いものだ。それは「観る」という行為の暴力性である。

 

自然界において、動物が相手の目を見ることは威嚇をする、間合いを詰める、狙いを定めるといった攻めの姿勢を表す。馬のゴーストは撮影所で鏡に写った自分と目を合わせたことをきっかけに気性を荒げた。ゴーディは目が合った相手を完膚なきまで痛ぶった。(テーブルクロスで視線を遮られたジュープは唯一攻撃されなかった。)Gジャンと目が合ってしまった者はことこどく吸い込まれた。もちろん人間同士の場合でも、両者が目を合わせている一触即発の状況があるように例外なく当てはまる。「目は口ほどに物を言う」ということわざの通り、観るという行為にはそうした動物の本能とも言える意識が内在されている。

 

また、見せ物にするという行為も辱めるといった一種の暴力を伴っている。シットコムに出演していたゴーディがその最たる例だ。

銀のヘルメットを被った記者がエメラルドに向けたビデオカメラはまるで銃のように見えるが、この性質を象徴するシーンだったと言える。本作ではそうした観る行為に秘められた暴力性という理念が一貫して含まれている。だからこそエメラルドに撮られたGジャンは無惨にも散っていくのだ。突飛なように見えて実は周到に用意されたロジックに基づいている構成が秀逸である。

 

③唯一無二の劇場体験

最後は劇場の大スクリーンで観る体験の重要性である。本作はIMAXがどうとかいう話もあるが、私がここで言いたいのは「映画館で鑑賞すること」の魅力である。

 

少なくとも本作をスマホタブレットで見ようとしている人がいたら、それは間違いなく勿体無い行為だと言える。画面が小さすぎる。天空を支配する巨大な飛行生物との邂逅が成り立たない。リビングのTVでもまだ小さいだろう。視界の全てをスクリーンが覆うような状況で空を見上げるのは何物にも代え難い体験だった。

 

自宅のTVで2回目を観て気づいたが、空を仰ぐ場面におけるGジャンの登場時間がそれほど多くないのである。思ったよりも姿が見えないのだ。だが、それが返ってGジャンを探す体験を強調していると感じる。視界が揺らぐ中、雲の切れ間から姿が一瞬見えるか見えないかという具合が事態の不穏さを高めて体験を特別なものにしているのではないか。何よりも見上げることが劇中の人物たちの行為と完全にリンクし、まるで自分があの地にいるかのような気分にさせてくれる。

 

映像を俯瞰で見るのではなく、探すという能動的な行為で作品と対峙する。監督は、映画は映画館で観てこそのものであるということを今一度示してくれたと思う。チャンスがある人はぜひ映画館で体験してほしい。

 

 

以上が私が「NOPE」に対する評価である。やはり本作の魅力は今まで見たことのない映画であるという点だろう。その新しさと迫力に打ちのめされた。だから私にとっての2022年ベスト映画はコレなのだ。