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映画の感想つらつらと。

『RRR』が見せつけた矜持

"RRR"をご存じか?

 

※ネタバレあり

 

RRR
監督:S・S・ラージャマウリ/2022年/インド

 

あらすじや史実との関係など説明している解説ブログは他にたくさんあると思うので、私がこの作品を見て感じたことをつらつらと綴りたい。

 

私はこの映画を見て真っ先に出た感想は羨ましい、という気持ちだった。インドの史実にインスパイアされ、発せられる言葉はネイティブ言語が大半を占め、インド映画らしさをふんだんに盛り込み、それでいてインド圏外の人々までも熱狂の渦に巻き込む牽引力を備えた作品。友情ドラマ、アクション、ダンス、全てを盛り込んだ英雄譚。大切な娘を助けたい思い。祖国の平和を取り戻す使命。猛火と水流。交わることのない2人が出会い流転する物語。

 

この映画から感じるのは、製作側の人間たちが自国の文化に対して強い誇りを持っているということだ。その筆頭となるのはやはりナートゥだろう。インド映画と言えば群衆大挙して歌い踊る印象が強いが、実はそこには彼らなりのロジックがあることを教えてくれる。英国紳士淑女のような華やかさはないかもしれないが、彼らにはないパワーと熱狂がボリウッドにはある。ジャケットを脱ぎ、土埃を巻き上げ、額に汗して踊る故郷のダンス。一度耳にすれば体を動かさずにいられない。育った環境も時代も関係なく全人類が生まれ持った享楽の感覚を的確に激しく刺激するのだ。

 

そうした自国を誇る精神はナートゥのみならず映画の枝葉末節にまで漏れなく流れている。私はそうした製作者たちのしたたかさに感動し、同時に嫉妬した。日本にとっての映画という文化が、やはり彼らほど大切にされているとは思えないからだ。ろくに邦画を観てこなかった私が言うのも不躾ではあるが、そもそも鑑賞してこなかった背景は日本の製作者たちからの作品に対する熱意が感じられなかったからだと言いたい。メインストリームに流れてくるのは流行りの俳優たちを寄せ集めたような作品ばかりで映画を見せたいという気配が感じられない。と、邦画界に対する不満を述べても仕方ないのだが、自分の国からも「RRR」のように世界を熱狂させる作品がいつか出るといいな、というのが本作を観て抱いた期待なのである。