sugarspot

映画の感想つらつらと。

『RUN』感想 歪み狂った我が子への愛

母親の束縛から逃れろ

 

※ネタバレあり

 

RUN
監督:アニーシュ・チャガンティ/2021年/アメリ

 

度を超えた愛情は時として狂気に変わる。とはよく聞く文言だが、この映画はそれとも少し違う。なぜなら母と娘は血の繋がった家族ではないからだ。生後わずかにしてこの世を去ってしまった我が子の喪失感を埋めるように、他人の子供を奪い愛情を育てた。外の世界を知らせないために子供の行動を厳しく制限した。子供の身体を毒で麻痺させ歩行を奪い、皮膚から筋肉、内臓まで、娘の全てを不全にした。そして娘の不全を埋めるように愛情で満たした。誰がどう見ても狂っている。実の母親ではない上に、彼女の心身を蝕み人生を破滅させた。

 

当然クロエにはこの家から逃げ出してほしいと願う。母親に見つからないうちに脱出を図るクロエを応援したくなる。クロエの逃走劇と母親の逆襲、そしてクロエの報復。最後まで目が離せない。

 

 

この映画を見ている時、ヒーロー番組「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」の第6話「キジみっかてんか」がよぎった。2022年現在放送中史上46番目のスーパー戦隊であるドンブラザーズには、欲望を爆発させ怪人に変身してしまう人間達が登場する。該当エピソードで登場する怪人・動物鬼(読みは「どうぶつき」だが名称と内容はあまり関係ない)は女性看護師が変容した姿。事務作業で多忙を極める当人が自身の手で患者を看病したいがために人々を襲って負傷させるという逆説的な発想を動機に暴れていた。誰かを助けたいために傷つける。とんちのような逆転の発想が狂人の造形として印象深かった。クロエの母親の行動にも似たような理念を感じる。

 

クロエの母親は、そもそもクロエの本当の母親ではなく、彼女を誘拐した犯罪者である。とはいえこの映画を見ながら親子の関係というものを考えずにはいられなかった。

 

 

親が自分の子供に注ぐ愛情というのは格別のものだろう。毒を飲ませて身体を拘束するというのは度が過ぎるが、それほどまでに子供を引き留めたくなる感情は推し量ることができる(今回の場合はそれ以上に真実を知られる恐れを感じた可能性も考えられるが)。私には子供がいないので親の気持ちというのは完全には分からないが、それでも年を重ね子供ではなくなってくると自分の親の考えが少しずつ分かってくるような気がしている。「この親にしてこの子あり」とは言うが全くその通りで、最近ちょっとした癖とか考え方が親に似てきたなと思う瞬間がある。そんな時ふと親の言動の背景が見えたような気がするのだ。小さい頃親は絶対的な存在に感じるが、子の年齢が上がるにつれて、社会を知るにつれて親も普通の人間だということを実感していく。我が子を思って、と子にかまう心情にも親のエゴイズムが含まれている。ただそのエゴイズムを理解できるようになるのは自分の子供について考え始める頃なのではないかと思う。そんなことを漫然と考えていた。


www.youtube.com