sugarspot

映画の感想つらつらと。

『レジェンド&バタフライ』キムタクから木村拓哉へ

※ネタバレあり

 

レジェンド&バタフライ
監督:大友啓史/2023年/日本

 

実は劇場公開時に映画館で鑑賞していたけれど、感想を途中まで書いてそのままにしてしまっていたので今更の投稿。

 

木村拓哉がキムタクを熱演した本作。キムタク好きの私は大満足。 突然だが木村拓哉のものまねタレントといえば元木敦士さんが私は好きだ。 GYAOの番組で本人を前にものまね芸人がネタを披露していて、残念ながら優勝は別の芸人さんだったが私は元木さんの演じる「あの頃のキムタク」が非常に好みだった。

 

人が木村拓哉をキムタクと呼ぶとき、それは間違いなくロン毛で肌艶の良い甘いマスクやSMAP×SMAPのPちゃんやソフトバンクのCMのイメージを指しており、概念としての「キムタク」である。

 

誤解しないでほしいが現在の木村拓哉が嫌いという意味ではもちろんない。「Go with the Flow」のCDは買ったし東京FMの「Flow」も聴いている。

 

ただ、現在の木村拓哉が、かつて世の歓声を溺れるほど浴びていた時代の彼とは違うことは事実である。それは良いとか悪いとかではなく、時代の移り変わりとして、若人が年齢を重ねる自然の変化として発生する変化である。

 

「解散」という出来事が必要以上に彼を変化させてしまったであろうことは想像に難くないが、今なお人々に注目されるレジェンド木村拓哉は贔屓目なしにすごいことだ。ただそれでも木村拓哉から段々とキムタクが抜けて行くような感覚が少しばかり寂しく感じられるのだ。そういう意味では、この令和の時代でキムタクに最も近い存在は元木敦士さんと言えるかもしれない。

 

しかし、この『レジェンド&バタフライ』は木村拓哉が未だキムタクであることをこれでもかと見せつけてくれた。

 

本作で彼は織田信長の人生を生きる。半生ではなくほぼ一生と言って差し支えないだろう。16歳の向こうみずな青年から魔王と恐れられた最期、実に30年の幅を一作品の中で見せている。恥ずかしながら日本の歴史物の作品をちゃんと観たのはこれが初めてかもしれない。大前提なことなのか時折端折られる詳細が理解を難しくさせていたが、これは私の不勉強のせいということにする。

 

信長の人生や彼の感情の機微という点は置いといて、純粋に歴史創作の「断片的な文献を創作によって繋げ一つの物語を生み出す」という魅力を身をもって体験した。なるほどこれは奥が深そうである。たしかに、誰も事実を知らない(目撃していない)からこそ自由な発想で紡ぐことができるストーリーというのはこのジャンルにしかない面白さだと気付かされた。

 

タイトルは「信長と濃姫」の意であるとパンフレットに書いてあったけど、私は映画を見た時に「史実とwhat if」かと考えていた。史実といっても現場を見た人はどこにもいないので”実際の出来事”とは言い切れないけれど。カエルの置き物によって分岐したアナザーエンディング…という演出も面白かったし、結局そうはならなかった点も含めて好きだ。マルチバースということにしよう。

 

戦のシーンがほとんど描かれないが、メインである信長と濃姫の夫婦ともバディとも言える親密な関係性を描いた物語は飽きることがない。そして描かれる「貧民との交戦」や「本能寺の変」にはしっかり緊張感があり、3時間という長時間の作品としてはペース配分が非常に良かった。

 

一番印象に残ったのは本能寺で明智軍に攻め入られた信長が敵兵の首を取って最大限の威嚇をする姿だ。誰もが知っている運命の瞬間。彼の最後を見届けることしかできない歯痒さと、抗い続ける当人に対する空虚な感情。もう後がない中で信長が最後まで見せつける威厳は鬼気迫るものがあった。

 

散々キムタク愛を語っておいて初めて見たキムタク映画だったのだが、やはり彼のスターぶりは健在だということがわかって一安心した次第である。


www.youtube.com