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映画の感想つらつらと。

『サンクチュアリ -聖域-』アウトローが胡乱な相撲界をぶち壊...さない!

※ネタバレあり

 

サンクチュアリ -聖域-
監督:江口カン/2023年/日本

 

Sanctuary:外敵から守られてて安全な地域。教会などの聖域。

 

土を盛り、俵を敷き、頭上には絢爛な吊り屋根が配された競技場。古くから残る厳格なしきたりは神事とのつながりも深く、現代においては重んじられるべき伝統であり時代遅れの慣習である。スポーツでありながら他の競技や武道とは一線を画す日本の国技、ー相撲。その世界は部外者が立ち入ることを禁じられたまさに聖域。

 

外からものを寄せ付けない閉じた世界には暴行、八百長、賄賂などの悪習も蔓延る。業界には深い闇が潜んでいる。

 

そんな厳粛な相撲界に土足で、いやスパイクで踏み入るアウトロー小瀬清は本作の主人公である。知識も礼儀も持ち合わせず、しかしセンスはピカイチで並み居る力士に次々勝利。良くも悪くも角界で目立ちまくってしまう小瀬くんを幾多の試練が待ち構えるが、次第にその渦中で器用に立ち回り始めるのがなんとも痛快。

 

この小瀬くん、優しさを覆い隠す太々しい態度(そしてそれでも隠しきれない優しさ)が非常に微笑ましい。大人の世界に踏み込むには純心すぎる小瀬くんの人となりだけで視聴意欲を掻き立てられた。

 

お金の問題で壊れてしまった家族関係を修復するため力士になったという経緯が既に家族思いの好青年であることを物語っている。体が不自由な父親のため、腐ってしまった母親に当てつけることもなく、先輩力士のいじめにも耐えながら孤軍奮闘する姿には胸を打たれる。

 

周りの悪い大人たちが小瀬くんをもて遊ぶ様子には目を逸らしたくなる苦しさがあり、それに負けんと立ち向かう小瀬くんを熱烈応援したくなるのだ。相撲界を取り囲む深い闇の中で小瀬くんのお茶目な姿が唯一の癒しであり希望の光だった。

 

一方でドラマのメインを担うスポ根ドラマが分かりやすく盛り上がる分、そのほかの要素を余計に感じたことは否めない。またいくつかの"社会の闇"に関する描写は表層をなぞるような取ってつけた印象が強く、ドラマの熱とのバランスが良くなかったと思う。やりたいことは分かるんだけどね。

 

本作はサンクチュアリの名の通りアウトロー小瀬清が聖域に立ち入る物語なのだが、面白いのは「聖域」の意味が徐々に変遷していく過程にある。はじめそれは「奇妙な慣習の残った過度に神格化された世界」であり「悪事も罷り通る閉鎖された闇の世界」であった。新参者の小瀬くんや国嶋は目を疑う光景に翻弄されることとなり、それは私たちも同様だろう。勢いで入門した小瀬くんに戦いの基礎も界隈の決まりもない。普通とはまるで違う世界に自分のルールで乗り込む彼にとって四股や礼節は「必要のない」ものだった。

 

しかしやがて本気で相撲を極めると決意した小瀬くんもとい猿桜は、厳しい練習の中で心身ともに洗練されていく。四股踏みや土俵、神棚への挨拶など無用に思えていたそれらは全て、成長する中で生まれる必然の振る舞いであった。力だけでは高みを望めず、技と心を磨くことが勝利へと繋がる。正々堂々、真剣勝負する精神がなによりも力士を強くする。今日におけるスポーツマンシップこそが相撲の真髄であり、相撲界の聖域を形作る本家本元であると気付かされた。

 

髪も伸び、立派なまげを結った猿桜。その姿は「スパイダーマン」におけるホームメイドスーツからのスパイダーマンスーツのような、「仮面ライダークウガ」におけるグローイングフォームからのマイティフォームのような満を持しての登場である。猿桜と静打のリベンジ戦。初戦の頃とはお互いに顔付きも意気込みも全てが違う。

 

何のために戦うのか。

 

力士として土俵に上がる意味を見つめ直した2人にもはや勝負の結果は関係ない。守りたい者のため。亡き家族の笑顔のため。 それぞれの思いがぶつかる舞台こそ、サンクチュアリなのである。

 


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小瀬くんを演じた一ノ瀬ワタルが相変わらずお茶目で愛おしい。