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映画の感想つらつらと。

『仮面ライダー THE WINTER MOVIE』親へ向けたプレゼンテーションの矢印

※ネタバレあり

 

仮面ライダー THE WINTER MOVIE ガッチャード&ギーツ 最強ケミー★ガッチャ大作戦
制作年 : 2023年 / 監督 :山口恭平


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冬映画といえば、新旧ライダーのクロスオーバーが見どころだ。全く異なる世界が衝突し合う年もあれば、世界観をうまく融合し共闘する年もある。私はどちらかといえば前者の構成が好きで『MEGAMAX』とか『フルスロットル』あたりが気に入っている。近年は後者のスタイルがよく取られていて『平成ジェネレーションズ』シリーズではMCUのように複数の世界観が交差する夢の共演が楽しめた。

 

今年はというと、現行ライダー・ガッチャードをベースに先輩ライダー・ギーツがサポートに回るような関係性でかなり『ガッチャード』主軸の物語を描いていた。あくまで現在放送中のライダーを一番の主役と捉え、先輩ライダーのエピローグは出来るだけ抑える構成は『バトルロワイヤル』とも似ていて、新しい冬映画のかたちが見えてきているようである。さらに昨年の龍騎に当たる過去作品との共演もなかった今年は特に原稿作品の色が強く押し出されており、そこで感じたのはこの作品が「子供と一緒に見にきた親に向けて最新ライダーであるガッチャードの魅力を改めて明示する」という大きな役割を任されていたのではないかということである。

 

映画の流れを簡単に振り返る。主人公の宝太郎は高校生。学校の成績はイマイチでテストの結果をきっかけに母親と口論になる。のび太のようなキャラクターを紹介。そしてケミーの捕獲。人目のつかないレストランの厨房で食べ物を漁る美食家ケミーのウツボッチャマ。驚き逃げ回るケミーとそれを捕まえようとする錬金術師一行の姿はどことなく『ゴーストバスターズ』のそれを彷彿とさせる。ケミーとはそういう存在であると端的に説明する。  続く戦いの中で先輩ライダー、ギーツチームが合流。さらにはクロスウィザードをはじめとする最強ランクのケミー達が大集合。彼らの捕獲ゲームが始まる。ケミー化してしまったギーツライダーを相棒にゲームに挑む宝太郎たち。さながらサトシとピカチュウのようなコンビネーションで伝説ポケ…ではなく最強ケミーの捕獲に成功する。

 

物語は急展開を見せ、明かされるクロスウィザードの過去と邪悪な錬金術師の陰謀。可愛いケミーを利用しようとする悪い人間の存在。それを阻止せんとする仮面ライダー。そして変身するヒロイン。ライダーたちは悪を倒し、再び世界に平和が訪れる。  ギーツケミーの真実。それは浮世英寿のかつての家族、愛犬・コンスタンティンの魂が具現した存在だった。飼い主を守るために捨て身の行動をとったコン。ケミーと人は心を通わせることができる。英寿の流した涙に思いを重ねる。  戦いを終え、自分の家へ帰ってきた宝太郎。母との仲直り。彼のまっすぐな思いと優しさ、ケミーとの友情。今年のライダーの魅力を総括する。

 

今年の冬映画は、まさに「劇場版 仮面ライダーガッチャード」と言うに相応しく、テレビ本編と同様のストーリーテリングで宝太郎や錬金アカデミーの活躍を楽しむことができる。この丁寧で堅実な語りはテレビ放送を楽しんでいる子供たちはもちろん、財布を握るという意味で真のターゲットである親御さんに向けてテレビ番組『仮面ライダーガッチャード』を訴求する意図があったと考える。

 

それでいてやはり劇場版ならではの豪華な作りにも満足だ。映画のゲストであるクロスウィザードは人間の言葉を話す特殊なケミー。クロスウィザードの語りによってケミーが歩んできた歴史の一端を知ることができた。あくまでこれは私の推測だが、彼女は子どもたちともっと仲良くなりたいという思いから自ら人間の言葉を学んでいったのではないだろうか。はじめこそあらゆるケミーに共通するような言葉しか発していなかったものの、次第に人間の言葉を用いて遊んだり会話をすることができるようになっていた過程からそのような背景が伺える。あくまでテレビ放送の延長としての映画作り。特殊なキャラクターに厚みを持たせ深みある物語に昇華できるところに作り手の本気度が伺えた。

 

ケミーとはかつて錬金術によって作り出された人工生命体。彼らは純粋無垢な存在であり、それを扱う人間によって善にも悪にもなる可能性を秘めている。道具としての利用価値しか見出さないスパナや世界の秩序を守るため人とケミーの交わりを禁忌とする錬金アカデミー、野望達成のためにケミーを悪用する冥黒の三姉妹。ケミーを巡り様々な思惑が交錯する中、ケミーと人間の共存を夢見る普通の高校生・一ノ瀬宝太郎が掴み取る未来とはー。