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映画の感想つらつらと。

『化け猫あんずちゃん』ロトスコープアニメが見せる日常×非日常

※ネタバレあり

 

化け猫あんずちゃん
制作年 : 2024年 / 監督 : 久野遙子、山下敦弘


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実際に撮影した映像をトレースし制作されたアニメーション。ロトスコープと呼ばれるこの技法によって作られた本作にはファンタジーと生っぽさが両立した独特の空気感を放っている。それが化け猫のあんずちゃんという荒唐無稽なキャラクターの実存感を高めることに一役買っている気がする。池輝(いけてる)町の住民は至って普通にあんずちゃんと交流し、まるで普通の人間と変わらない存在であるかのように振る舞う。東京からこの町にやって来た少女かりんは我々と同様その異様な光景に初めこそ驚くが次第に溶け込んでいく。池輝町には東京と全く異なる日常が流れている。先ほどファンタジーと生っぽさが両立していると表したように、日常でありながら非日常でもある、つまり共感性がありながらズレもある心地よいギャップが存在している。私の親は地元が新潟なので小学生の頃の夏休みにはよく帰省していたのだが、その時の「自分の生活と変わらないはずなのに全く違う世界に来てしまったような感覚」を思い出した。

 

あとは何よりキャラクターの表情がいい。池輝町であまのじゃくという“自称”不良グループをやっている林という小学生が見せる豊かな表情が特に印象的なのだが、「都会から来た可愛い女の子に一目惚れする男の子」という姿がこれまでのアニメーション作品では見たことのないようなリアリティのある誇張具合で面白かった。ロトスコープを用いることで、普遍的概念としての表情ではない役者が演じた演技という血の通った表情がアニメーションの生き生きとした姿に上手く還元されている。

 

映画の最後でかりんは東京に帰ることを拒み、池輝町に残る決意をする。母親の死を経験し、生きる意味を探していた彼女はそれをあんずちゃんたちが暮らす池輝町での生活の中に見出す。父親に別れを告げ、あんずちゃんがいる草成寺へと駆け上がるかりんを夕暮れの太陽が照らす。吹っ切れたような様子で力強く走る彼女の生き生きとした姿。お寺に着いてあんずちゃんを呼ぶ彼女のはつらつとした表情を見れば、もう心配はいらない。