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映画の感想つらつらと。

高校時代の友人オクダくんの話。『マイ・ブロークン・マリコ』

高校時代、オクダくんという友人がいた。『マイ・ブロークン・マリコ』を観て彼を思い出した話をしたい。

 

※ネタバレなし

 

マイ・ブロークン・マリコ
監督:タナダユキ/2022年/日本

 

前置きとして当時の私について説明する。高校時代の私は少し異常なくらい勉強に燃えていた。周りの学生たちが部活や恋愛などで文字通りの青春を謳歌させる一方で私にとってのそれは勉強だった。一応陸上部には所属していて週5日の練習もサボったことはなかったが、他の部員が県大会やインターハイ出場に燃えていた様子と比べれば、日々のエクササイズくらいの感覚でランニングしていた私の部活動に対する熱意が露ほどもなかったのは明らかである。

 

通学の電車内では必ず英語、古文、漢文いずれかの単語帳を開き、コンビニやファミレスなどの通学路に潜む数多の誘惑には目もくれず直行直帰するといった生活を3年間続けていた。考えれば考えるほどなぜ当時の私がそこまでの野心を燃やして勉強に向き合っていたのかはわからない。ただ実際成績は学年で3本指に入るくらいのもので傍目に見ても良い結果を出していたと思う。

 

クラス内では、私といえば勉強と言われるほどには成績は優秀だった。そして同じくクラスの中で勉強ができると言われていたのが件のオクダくんである。オクダくんも相当に勉強ができる生徒の1人で定期テストの度に順位を争う良きライバルだった。どの教科も満遍なく8割程度の点数を取るのが私のスタイルだとすればオクダくんは英語や物理などの得意科目で満点近い成績を叩き出すタイプだった。通学路も重なっており私が1人黙々と単語帳と格闘しているとオクダくんも横で単語帳を開きながらブツクサ言う人だった。要するに性格は違えどお互い似たもの同士だったのである。似たもの同士だからこそ表立っては言わないがお互いに熱い闘志を燃やしていた。

 

そして似たもの同士だったからこそ私はオクダくんが少し嫌いだった。当時の私は、対抗心を激しく燃やすライバルであるオクダくんと仲を深めることに抵抗を感じていて、そんな私の心中など知る由もなくずかずかと入り込んでくるオクダくんのことが苦手だったのである。しかしテストになればクラスのツートップとして要らぬ注目を浴びせられたりと私の意に反してオクダくんとの距離は確実に近づいていた。

 

特に私がオクダくんを好きになれなかった理由はその性格だ。先にも述べた通り私は1人でいようが他人がいようが静かに勉強するのが好きなのだが、オクダくんはとにかく声に出して頭に叩き込む学習方法を取っていた。休み時間や自習時間、私の近くに来ては勉強道具を広げあれこれと空書きしたり暗唱したりと彼は騒がしいことこの上なかった。

 

部活がない日には私はホームルームが終わった15時50分には教室を後にし、15時55分最寄駅発の電車には乗車するという電光石火のスピードで帰宅していたのだが、そのスピードに遅れずついてくるのがオクダくんであった。彼がクラスメイトと話している隙を見てそそくさと教室を抜け出すのだが、オクダくんは必ず私の後ろをついてきた。 

 

意固地な私はどうしてもオクダくんを受け入れることができず、彼の話には適当な相槌を打ったり、不機嫌そうな顔を浮かべたりしていた。とにかく面倒臭いなとしか思えなかったのでこちらの無愛想さに観念して離れてくれないかとすら考えていた。

 

要するに私はオクダくんとの中途半端な関係を断ちきる勇気がなかったのである。突き放すことで彼を傷つけてしまうかもしれないことを思うと踏み切ることが出来なかった。結局オクダくんとの関係は高校卒業まで続くこととなる。

 

そして迎えた卒業式。教室ではクラスメイトとの別れを惜しむ者、浪人が決まりどこか踏ん切りのつかない顔を浮かべる者、成人したら酒を呑みに行こうと約束する者、とにかく苦しい受験期間を終え安堵する声で溢れていた。

 

私とオクダくんはお互いに大学進学が決まっていて当然彼とはこれで別れとなる。これまで過ごした時間からすればひどく軽い調子で一応の感謝と健闘を伝え私は高校を後にした。  このあとの出来事が本題に繋がるのだが、その日の夕方にオクダくんからLINEが入った。

 

それは私に対しての感謝や思いなど読むのも苦労するほど長文のメッセージだった。画面を覆い隠す勢いの文字の固まりから、オクダくんがどんな思いでこのLINEを送ったのかは想像に難くなかった。

 

細かい内容は正直よく覚えていないのだが中でも鮮明に思い出せるのは、オクダくんは私が彼を鬱陶しく思っていたのに気付いていてそれでも接し続けていたということ、私を煩わせて申し訳ないと思っていたこと、そしてそんな自分に付き合ってくれた私に感謝していること、この3点だ。

 

私は彼のメッセージを読んだ時に自分がひどく惨めに思えた。今振り返ると彼は彼で相当な内容の文章を長文で送りつけていたと思うのだが、当時の私はそんなことよりも、こと友人関係に置いて成熟した対応をしていたオクダくんに対して幼稚な態度を取り続けていた自分自身が恥ずかしくてたまらなかった。ただただ申し訳ないという思いでいっぱいだった。

 

最後に少し本作の話をすると、冒頭シィちゃんとマリコのLINE画面で2人の関係ははっきりと見えてくる。学校を卒業した後でもしつこく構ってくるマリコにテンプレートな返信を続けるシィちゃん。鬱陶しいと思いながらも止めてと言わない彼女の姿が当時の私と重なり、嫌でもオクダくんを思い出させる。無論オクダくんは今も恐らく元気だと思うので、間違っても彼の遺骨を担いで辺境の地を旅することはないはずである。何よりも卒業後本当にオクダくんとは連絡を取っていないので所在も何も分からないのだが、このブログを以て彼への陳謝としたい。

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