sugarspot

映画の感想つらつらと。

悩み苦しむ等身大のヒーロー『THE BATMAN-ザ・バットマンー』

上映時間3時間。それだけで鑑賞を後回しにしていたが先日のジョーカーの件を知りようやく劇場へ。トイレにも行かず、睡魔で意識が飛ぶこともなく3時間スクリーンと対峙し切った自分にまず拍手を送りたい。

 

※ネタバレあり

 

The Batman
監督:マット・リーヴス/2022年/アメリ

 

実際のところ終盤の戦闘までは非常に長く気怠く感じる部分もあったが、リドラーとの終わりの見えない戦いがそのまま体感時間に表れていたように感じる。最後の戦いが終わった途端にスッと幕切れする潔さは心地よかった。

 

バットマンというキャラクターは他のヒーローにあるような超能力を持たない。彼にあるのは金と地位と復讐心である。また彼の敵は宇宙や別次元から襲来する人知を超えた存在でもない。彼が戦うのは腐敗した政治、汚職、裏社会、そして彼が住まう救いようのない都市ゴッサムだ。頼れる警官と共に、失敗を重ねながら地道に事件を解決していく。夜のゴッサムを支配していそうで意外に翻弄されている姿に不完全さが感じられ好感が持てる。

 

「俺は影だ。」彼はそう口にしていた。闇夜のゴッサム。犯罪が蔓延る街に彼は現れる。今作は一貫して画面が暗いため、黒塗りの影から突如バットマンが現れるシーンはとても印象的である。街頭に薄く照らされたり、発射火薬で瞬間的に現れる姿が彼の冷徹な心を際立たせているように見えた。また一方でカーチェイスやラストバトルのようなここぞと言う場面では派手な音楽と強い照明で一気に盛り上げてくれるのも良いアクセントになっていた。

 

影に身を隠すことで犯罪を炙り出し粛清するバットマン。恐怖のシンボルとなる一方で彼はリドラーとの戦いを経て自らが下す制裁が必ずしも善行ではないことを悟る。市長選演説の襲撃でリドラーの支持者が放った「俺は復讐者だ。」という台詞は奇しくもバットマンの常套句と重なっていた。ここでブルースはバットマンリドラーが善対悪の二項対立ではなかったと気付く。直後の彼の行動は市民を助け導く光になるのだが、これこそがバットマン誕生の瞬間である。犯罪者を震えさせる恐怖のシンボルではなく、市民に信頼される正義のシンボルとなったラストには感動した。ヒーロー像の確立が非常に面白く、逡巡した長尺の過程も効果的に影響していると思う。

 

犯罪の絶えない街ゴッサム。再興はあり得ないと言われるまでの有様だがブルースの目には希望の光に満ちている。なぜならそこが彼の故郷であり彼の生きる全てなのだから。


www.youtube.com