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映画の感想つらつらと。

いつまで夢見るつもりだい?『サタデー・ナイト・フィーバー』

ジョン・トラボルタ。一度聞いたら忘れない名前。初めて見た彼の映画は『パルプ・フィクション』。まだそんな面影もないほどに若い彼の映画がこの作品。白いジャケットに身を包み、ミラーボールの下でクイっと腰を曲げ片腕を突き上げる1人の男。誰もが一度は見たことがある印象的なポージング。だが浮かれ調子なポスターからは想像も付かないほど地に足のついたストーリーだ。

 

※ネタバレあり

 

Saturday Night Fever
監督:ジョン・バダム/1978年/アメリ

 

いつまで子供でいるんだい?早く大人になりなよ。そう諭すようなメッセージを投げかける。

 

夜を明かす。夜が明ける。その過程を夢から覚める、独り立ちする主人公の成長と結びつけたのは面白い。また、そう考えると女性を妊娠させてしまい自暴自棄になった末橋から転落死した友人(ごめん。名前覚えてない)は彼女との結婚か妊娠中絶かの選択を迫られていた訳だが、そのどちらも選択できなかったという点で大人になれなかった、あるいはなろうとしなかった存在と位置付けできるだろう。

 

子供のように無邪気にはしゃいでいられる時間は案外短い。狭い世界で威張り合い自分本位な生き方をしていても、いつか必ずその世界から脱却することを迫られるときが来る。その時にの選択次第で自立に向かう者と、目を背け現実から逃げ続ける者の二手に分かれてしまう。

 

本作でいえばトニーは唯一正しい選択を行った人物ではないだろうか。オープニングのシーンは実はバイトをしている最中であった。浮かれた様子はありながら多少なりとも社会との繋がりを既に持っていることが分かる。また、家庭環境は悪くはないものの良好とも言えず両親からの期待を知りつつも自分はそれほど優れた人間ではないと感じており、理想と現実のギャップに絶えず苦悩する。それ故にディスコでのコンテストは彼が彼自身を肯定できる一番の機会であった。

 

トニーはコンテスト出場に際してガールフレンドのアネットをペアに検討していたが、ある夜のディスコでステファニーと出会う。彼女はトニーや彼の仲間たちよりも年上で自ら生計を立てている。今日は誰それに会った。明日は有名俳優の誰それに会うなどと、多少ひけらかすような言い草が鼻につくが、トニー達とは異なる世界に生きる人間であることは分かる。自立した生活をし、尚且つダンスが上手な彼女にトニーは憧れを抱きコンテストの出場を誘う。

 

初めはステファニーも大人になりきれない幼稚な人間として描いているのかとも思ったが、結末を見るに彼女は「あちら側の住人」と見るのが正しそうである。特にトニーのガールフレンドであったアネットとは対照的で高飛車な態度はありつつも彼とは常に対等かそれ以上の位置関係にあるのがいかにも大人な人物像だった。

 

当のコンテストは見事優勝を果たしたが、同時に出来レースであったことが判明。トニーは自分達より明らかに実力のあるペアが国籍を理由に優勝できなかった事態に憤慨しトロフィーを放棄し立ち去ってしまう。地元出身というだけの理由で優遇されるような小さな世界は居心地の良いものではない。トニーは純粋な勝利を収めたかったにも関わらずアンフェアな舞台を用意されてしまい酷く呆れたに違いない。

 

昨日まで一緒に盛り上がっていたはずなのに、急に仲間内のネタがしょうもなく思えたり恥ずかしくなる経験は少なくない。大人になるというよりは子供でなくなると表現するのが適切な気がするが、トニーはそうした過渡にいた。ステファニーとの出会い。小さなコミュニティ。友の死(本当に名前が思い出せない)。幾多の経験を経て、遂に彼はサタデーナイトに別れを告げる。一人夜を明かしたトニーは翌朝ステファニーの元を訪ね独り立ちを宣言するのだ。

 

本作のオープニングとエンディングを飾るのは名曲「Stayin’ Alive」。軽快なリズムとは反対に内容は漠然とした不安に苛まれながら生きる青年の心を歌っている。明日のことより今夜のディスコが大事だったトニーが身を立てようと決意するところまで来た。不安かもしれないが「ステイン・アライブ=それでも生きている」ことを胸に歩き出した彼の門出を祝いたい。


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